
あの息が詰まるようなお寿司屋さんの事件から、数ヶ月後。
私は第一子を妊娠し、中期に入った頃のお話です。
突然、お腹に刺すような激痛が走りました。
しかし、その日は日曜日。よりによって、夫の両親の家へ遊びに行く予定が入っていたのです。
「どうしよう。お腹の赤ちゃんに何かあったら……」
激しい痛みと不安に怯えながらも、私の頭を支配していたのは「彼になんて言われるだろう」という、夫への恐怖でした。
それでも、痛みが限界に達し、私は震える声で夫に伝えました。
「ごめん、すごくお腹痛くて……。病院に行きたい」
かかりつけの婦人科に電話し、すぐに受診することに。
車を持たない私は、当然、夫に運転して連れて行ってもらうしかありませんでした。
「……ちっ。」
私の言葉を聞いた瞬間、夫は大きく舌打ちをしました。
そして、氷のように冷たい声でこう言い放ったのです。
「おまえってさ、本当に俺の邪魔しかしないよな。」
どうして、こんな日に限ってお腹が痛くなるんだろう。
赤ちゃんが心配な気持ちと、夫を怒らせてしまった強烈な罪悪感。
重たい心を抱えながら受診した結果……激痛の原因は「便秘」でした。
■ 帰りの車内。「お前のせいで台無し」
ただでさえ機嫌の悪い夫。
便秘という診断結果は、彼にとって私を責め立てる「最高の口実」になりました。
帰りの車内は、息が詰まるほどどんよりとした空気に包まれていました。
無言の圧に耐えかねていた私に、運転席の彼が口を開きました。
「おまえのせいで、今日の予定台無し。」
「……なんか面白い話して。」
え……?
耳を疑いました。
痛みと恐怖で泣きそうになっていた妊婦に向かって、機嫌を取るための「面白い話」を要求してきたのです。
頭が真っ白になり、何も言葉が出てきません。
ただただ、重たくて冷たい空気が流れるだけの密室の車内。
このまま、消えてなくなりたい。
お腹の膨らみを抱えながら、私はただ、窓の外を流れる景色を虚ろな目で見つめることしかできませんでした──。