28日前

第2話 逃亡者、凛々。駅のホームで「自分」を捨てた日。

「一生懸命頑張れば、いつか報われる」

私が長年信じていたその言葉は、あの日、音を立てて崩壊しました。

「5センチの絶望」の翌日。

私はいつものように、駅前で美容室のチラシを配っていました。

皮肉なことに、私はこのチラシ配りが大好きでした。

「あ、飴ちゃんくれた!」

そんな無邪気な喜びで、心の中の巨大な欠損を必死に埋めようとしていたのです。

しかし、駅のホームで線路を見つめた瞬間。

私の中で張り詰めていた「緊張の糸」が、突然、プツンと音を立てて切れたのです。

『……ねぇ。もう、終わりにしよう? このまま知らない電車に乗れば、全部終わるよ』

コミュ障でHSPの私にとって、一番怖いのは「心配されて、想定外の会話が発生すること」です。

「大丈夫?」と聞かれるたびに嘘の笑顔を作ることに、もう精神は疲れ切っていました。

チラシ、スマホ、家の鍵。

「あ……私、これだけで逃げられるんだ。」

そう思った瞬間。

私の足は吸い込まれるように改札を抜け、電車に乗り込んでいました。

職場から、無許可の逃亡(バックレ)を開始したのです。

■ 逃亡、そして「対象を確保」

夜。

あてもなく辿り着いた馴染みの駅で、時間確認のために、ほんの一瞬だけスマホの電源を入れました。

直後。目の前に現れたのは、2人の警察官でした。

👮‍♂️ 警察官A:

「……凛々さんですね?」

👮‍♂️ 警察官B:(無線に向かって)

「こちら〇〇。対象を確保。本人は無事です」

……確保。

その無機質な言葉が、私の耳に冷たく響きました。

職場の皆さんが、突然消えた私のために、警察に捜索願を出してくれていたのです。

いじめられたわけじゃない。皆、本当に良い人たちだった。

だからこそ、その「善意」が、当時の私には一番痛いダメージでした。

■ 裏切りの代償

結局、職場には一度も連絡をしませんでした。

髪を切りすぎても見捨てなかった先輩。

いつも笑い合っていた仲間たち。

彼らの信頼をすべて裏切り、私は逃げ出したのです。

「こんなひどいことをした私には、きっといつかバチが当たる」

自分からすべてを壊し、社会的な信用を失った絶望を感じながら、私は自宅で泥のように眠りにつきました。

しかし、現実は私を休ませてはくれませんでした。

美容室から逃げ出した私を待っていたのは、

【残高:数百円】という通帳と、容赦なくポストに投函される「税金」の支払いだったのです——。